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なおき

クララ・クレフトさんと、ヴェナ・ハドリチコヴァー先生のこと

私はこの3月でいよいよ51歳になるが、ずっと職業編集者として過ごし、様々な出逢いの縁があってここまで来た。

3年前に、生まれて初めてドイツ人と出逢った。それが、クララ・クレフトさん。私にとってのドイツとの親しみは、もっぱらバームクーヘン、ドイツビールとジャーマンポテトだけだったのだが、まさかの落語を通じてのドイツとの縁だった。

落語ファンの皆さんは、兼好、一之輔、白酒、天どん、扇辰が欧州各国を巡回するツアーに出たことを記憶されている方も多いと思う。
この素敵な公演を企画・実行されたのが、クララ・クレフトさん。

この一之輔公演の件の記事制作の件で知り合ったのだが、2013年の白酒公演の時のこぼれ話で、素敵なエピソードを頂いた。

白酒のプラハでの公演の際に、観客として来られたチェコスロバキアのご婦人が、なんと1960年代の上野鈴本のビラを持って会場に現れた。 
そのビラの複写を、クララさんに頂いたのだが、落語芸術協会の創立35周年の文字が刷られているので、おそらく昭和40年。3月下席、鈴本有名会で、ヒルのトリは三平、ヨルのトリは円生。正蔵、馬生、柳朝、志ん朝、円楽の名前もある。
きっとこのご婦人にとって、48年前に遠い異国で観た落語が、永遠に色褪せない素敵な記憶であったに違いない、そう思った。
落語の歴史を鑑みても、実に素晴らしい演者が同時代に揃った時だし、手練れの演者達は存分に異国からのお客様を歓ばせたはず。落語の力が誇らしかったし、その夫人の存在がなんとも嬉しかった。2013年のプラハで1965年の鈴本のビラに出逢う、それだけで心が大きく震えた。

このご夫人は、プラハ大学の欧州日本学科の落語研究の第一人者、ヴェナ・ハドリチコヴァー先生。1960〜70年代には、チェコスロバキア大使夫人として東京に居て、この駐在時代に、頻繁に寄席に通われていたとのこと。ハドリチコヴァー先生は、クララさんが主催したプラハでの白酒公演の最前列の席で、とても楽しそうに落語に耳を傾けていたそうだ。
公演後にクララさんが「円生の孫弟子、志ん生の曾孫弟子」と天どん、白酒を紹介した時の、ハドリチコヴァー先生の写真も拝見させて頂いたが、なんともキュートな笑顔だった。

ハドリチコヴァー先生は、昭和40年当時の寄席で話題の美女だったはず。まだまだ外国人が珍しかった時代に、ましてや寄席の客席に足繁く通った青い目の美人は、当然、楽屋でも話題にもなっただろう。詳しい経緯は定かではないが、志ん生、志ん朝親子と交流が生まれ、志ん朝はチェコスロバキア大使館にも訪れているそうだ。先生は落語の研究の成果のひとつとして、90年代に「Smích je mým řemeslem 」邦題「私の芸は笑い」という本を上梓されている。先生の真摯な研究への思いに触れて、志ん朝も心を動かされたに違いない。

クララさんを通じて頂いた資料によると、先生は「品川心中」をプラハ東洋研究所の季刊誌に発表されたり、プラハ盆栽クラブの会長を勤められたり、ずっと日本文化を愛してくれていた。

このヴェナ・ハドリチコヴァー先生が、残念ながら2016年1月20日にプラハで逝去されたと、クララさんからメールが届いた。享年91。謹んで哀悼の意を表します。

人間には誰しも定められた時間があるが、先生が2013年に生の落語を、しかも交流のあった、志ん生・志ん朝親子の係累にあたる、白酒を観て頂けたことがなんとも嬉しい。神様の粋な計らいだったと思わざるを得ないし、また、先生の素敵なエピソードがこうして何カ国もの国境を越えて、人の心がつながって温かいままに、落語のふるさと日本にも届いた。難しい問題だらけの2016年の地球だが、落語の縁で、異国とこんなに温かいやりとりが出来る。

ハドリチコヴァー先生、素敵な人の絆に触れて思いがけず先生を知り、しかも、先生がずっと大事にされていたビラの複写を頂きました。ありがとうございます。どうぞ、安らかに。

※写真は、ハドリチコヴァー先生の著作「Smích je mým řemeslem 」より、チェコのローマ字で表記された「寿限無」の一節。

(クララ・クレフトさんより)
今年度は春風亭一之輔及び立川こはるが演劇祭等に参加する為に、渡欧します。
最新情報は
https://ja-jp.facebook.com/Ichinosuke.in.Europe
もしくは https://twitter.com/ichinosukeineu/ までよろしくお願い致します。
現地の様子は近年同様、可能な限りネット中継するとのことです。
壮行会、凱旋公演のチケットは、ざぶとん亭http://www.zabutontei.com/まで。

2016/03/07 6:11 PM なおき

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