第224回 新・よたろーのーと  夢月亭清麿


 人が集まるところにはおしゃべりがある。とりとめのないお
しゃべりでも相手や気分によっては、とても楽しいものになる
こともあるが、時にはただ疲れただけという不快な徒労感で終
わることもある。分かり合っている友人だとか、お互いが関心
を持っている事柄についてだったりすれば、楽しさの確率はピ
ーンとハネ上がる。
 とりわけ、プロスポーツを好きな同志で何の遠慮もなくしゃ
べり合うのは、快楽の極みと言っていいくらいだ。僕と友人が
二人、一人は大の巨人ファン、一人は大のヤクルトファン、あ
る夜居酒屋で落ち合った。
「ネエ、オレの言ったとおりだろう。巨人はペタジーニを取っ
たからダメになったんだよ。おかげでヤクルトにはラミレスが
あわや三冠王だよ。ペタジーニとあのカミさんは、トラブルメ
ーカーで疫病神なの。来年のヤクルトは期待できるぞ。」
 成績のわりにはヤクルトファンは元気だった。
「ペタジーニを阪神や中日に渡すわけにはいかないんだからし
ょうがないよ。いいんだよ、こういう年もあるんだよ。この一
、二年堀内がチームを整備してくれればいいんだよ。二年後、
三年後は、原監督で夢の続きを見るんだから。」
 いつになく巨人ファンは元気がなかった。
「あの原解任はないよねえ。だいたいフロントが出しゃばると
ロクなことはないんだから。まあ数年には、原巨人、古田ヤク
ルトで優勝争いをするんだから、ガマン、ガマンだよ。」
 ヤクルトファンは、どこまでも楽観的でお人好しだ。この流
れを止めるのが僕の役割だ。プロ野球をしゃべり合うというこ
とは、日常では慎しんでいる悪口を存分に爆発させることでも
あるのだ。
「原はどこまでいってもバカだよ。甲子園で星野のバカに花束
もらって、涙を流して感激するなんてバカの極め付けだよ。だ
いたい三山が悪いなら悪いと言えばいいし、オーナーがバカな
らバカだと言えばいいんだよ。読売内の人事異動なんて言われ
て黙っているのは、結局、巨人の体制の中でしか生きられない
んだよ。」
「いいんだよ、原はなあ、原はオレと同じで、生涯一巨人バカ
なんだよ。オレ達はそういう原だから好きなんだよ。フロント
がダメなバカばっかりでも、外人選手が働かなくとも、時には
チームが低迷しても、どんなことがあっても、巨人を愛するの
が、真の巨人ファン魂なんだ。」
「オマエのような巨人エゴイストが、プロ野球機構の敵なんだ
。読売新聞読んで日テレ見て、一生バカでいろ。」
 その後二時間、ずっとこんな調子だった。僕達三人は本当に
仲の良い気の合う友人同士だということを確信して、家路に着
いた。